<書評>『反資本主義 新自由主義の危機から<真の自由>へ』デヴィッド・ハーヴェイ 著
2024年1月21日 07時00分
◆分析を通し代替案を模索
[評]平川克美(評論家)
資本は、その運動中に三つの基本形態をとる。第1は貨幣であり、第2は商品になる。そして第3に生産活動になる。そして、最も移動しやすいのは貨幣であり、貨幣は運動することで増殖する。資本主義とは成長を条件づけられたシステムであり、本書の著者が言う複利的増殖を続けている。著者は、アメリカが100年間で消費した量のセメントを、中国ではわずか2、3年で消費してしまった例を挙げる。この商品やサービスの爆発的増加を吸収する市場はどこにあるのか。
本書は、経済地理学、都市研究の第一人者である著者による、ポッドキャスト番組から生まれたもので、マルクスを通して現代資本主義を分析し、代替案を模索している。プロレタリアートという言葉に馴染(なじ)みのない、マルクスを読まない若者たちにも理解しやすい内容になっている。
資本主義は、国家の枠組みを超えたグローバル資本主義として、あるいは金融資本主義として、また社会的共通資本を民営化によって切り崩す新自由主義的形態として成長の空間を広げてきた。しかし先進国が人口減少のフェーズに入り、地球環境に甚大な影響を及ぼす段階になった今、これらの経済システムの限界が露呈しつつある。
そもそも資本主義とはいかなるもので、それはどのようにして生まれてきたのか。おなじみの物語は、勤勉なものと怠け者がいて、「放蕩(ほうとう)な人々は生活をするのがやっとの状態に取り残され、労働力を提供することに」なったというもの。本邦の政治家が好んで引用する物語である。少しまともな政治家なら、ウェーバーが述べた倫理的プロテスタンティズムと資本主義の精神の関係について語るだろう。
マルクスはどちらの物語も棄却して、従来の統治制度の簒奪(さんだつ)、略取、強奪、暴力、詐欺、国家権力の不正適用の過程から生まれたのが資本主義だと主張している。そして資本主義が生み出してきた疎外の諸構造を見極めろと主張する。本書は、今なぜ世界はこうなのかを改めて再確認するための一級の手引書である。
(大屋定晴監訳、中村好孝、新井田智幸、三崎和志訳、作品社・3520円)
1935年英国生まれ。ニューヨーク市立大特別教授・経済地理学。
◆もう1冊
『新自由主義 その歴史的展開と現在』デヴィッド・ハーヴェイ著、渡辺治監訳(作品社)

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