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『資本論』の翻訳 鈴木 直

 


ちくま学芸文庫

    『資本論』の翻訳

    このほど『マルクス・コレクション』版の全面改訳を経て、『資本論 第一巻』(上・下)が文庫化されました。この大古典の翻訳をめぐり、訳者の一人である鈴木直氏が日本の翻訳史における興味深い一断面を切り取られています。ぜひお読みください。(PR誌「ちくま」より転載)

     一度は読んでみたいと思っているのに、なかなか手が出ない。そんな著作ランキングがあれば、きっとマルクスの『資本論』はいいところまでいくはずだ。
     読んでみたいと思う理由はいうまでもない。なんといっても「資本主義」を抜きにして現代は語れない。その「資本主義」という言葉は、ほかならぬ『資本論』の翻訳を通じて日本に定着した。デジタル革命と手をたずさえて、世界中でふたたび「富の集中」と「貧困の拡大」が同時進行しているこの時代に、もう一度、この資本主義論の源泉を訪ねてみたいと思うのは自然なことだろう。実際その分析は、今読んでもまったく輝きを失っていない。
     では、なぜ手が出ないのか。その理由の一つは、これまた『資本論』の翻訳にあるように思われる。もともと『資本論』は冒頭の商品論や貨幣論を除けば、けっして読みにくい本ではない。原著が出版された当時も「わずかな箇所を除けば、その叙述は分かりやすさと明瞭さの点できわだっており、学問的水準の高さにもかかわらず稀にみる躍動感を備えている」(『サンクト・ペテルブルク新聞』1872年4月20日号、『資本論』第二版あとがきより)と称えられた。そう、『資本論』は躍動感に満ちた「読ませる本」なのだ。それがどうして翻訳は、こうも無味乾燥で読みにくいのか。
     たとえば岩波文庫版でも、マルクス=エンゲルス全集版でも、誤訳の少ない良心的な翻訳だ。しかし、いかんせん律儀な逐語訳原則が貫かれている。ドイツ語の一文は日本語でも一文として訳される。結果として訳文は長く、複雑になる。なぜこんな翻訳スタイルが定着したのか。
     日本で最初に『資本論』全巻を翻訳したのは高畠素之(たかばたけもとゆき)だった。その訳文は全体として読みやすく、逐語訳原則の墨守などは見られなかった。新聞紙上でも「ただたゞその平明流暢なるに嘆服するの外はない」(吉野作造、『東京日日新聞』1926年1月8日)、「恐らく原文よりも解り易いと思はれるほど暢達な行文に譯出されてゐる」(石川三四郎、『読売新聞』1927年10月6日)などと絶賛された。驚くべきことに、高畠素之は独学でドイツ語を学んだ市井の知識人だった。
     その時、猛然と巻き返しをはかったのが、遅れをとった官学アカデミズムだった。改造社から廉価版の高畠訳が出版された同じ日に、岩波文庫からは河上肇・宮川實訳の『資本論』分冊が刊行された。高畠は、もともと福田徳三率いる資本論翻訳グループの一員だった。片や河上肇は、1920年代に社会政策学会を二分した福田の最強のライバルだ。いわば学会の穏健派と急進派が『資本論』翻訳に舞台を移して本家争いを演じた。
     その際、読みやすさを優先した高畠に対して、河上は徹底した逐語訳を優先することで、高畠訳の不正確さを炙り出そうとした。三木清も河上を応援した。しかし、高畠訳に対する二人の批判は、ほとんどが学校文法レベルの些末な言いがかりにすぎなかった。いわばアカデミズムの側が、逐語訳を武器に、自分たちの翻訳の学術的優越性を主張しようとしたのだ。こうして「市井の知識人=読み易い翻訳=社会改良をめざす穏健派」に対する「官学アカデミズムの学者=逐語翻訳=体制変革をめざす急進派」という意味のない疑似対立が『資本論』の翻訳を舞台に醸成された。昭和と共に始まったこの不毛な本家争いは、その後の官学アカデミズムの硬直した翻訳習慣と難解翻訳を生み出す一つの要因となった可能性がある。
     この度、ちくま学芸文庫から刊行されることになった『資本論第一巻』(上・下)は、今村仁司氏が逝去された後、三島憲一氏と小生がマルクス・コレクション版を全面的に改訳したものだ。目指したのは、マルクスの原文の「躍動感」を平易なスタイルで読者に伝えることだった。硬直した逐語訳への二人のささやかな抵抗がわずかでも成功しているかどうか。それは、この機会に本書を手にとってくださる読者の判断に任せるほかない。

    週刊金曜日読者会

     


    読者会から

    埼玉県西部読者会 
    【2月例会の報告】2月は6人が参加。話題として▼「大型太陽光発電は環境景観の問題はあるが、脱炭素を目指すならどこかで折り合いををつける必要がある」「斎藤幸平さんの『人新生の「資本論」』では、環境のためには脱成長が必要としているが、これから発展しようとする国にとっては、成長の障壁になっており、先行資本主義国の環境政策はショックドクトリンではないのか?」「コロナ政策や少子化対策、子ども政策もショックドクトリンの危険性があり、多くの野党や市民運動が抗しきれていない」▼ホットニュースとして、TNさんから「4月の日高市長選」への出馬が発表され、HRさんからも「坂戸市議選」への出馬と市議会の現状説明があった▼課題として、「日本の経済と社会、国民と市民の生活はどうなっているのか」などがあげられた。問合せ(070・5075・4761h.nagaiwa@gmail.com長岩)

    岡山読者会 
    3月31日(日)14時~16時半、岡山市立東山公民館(岡電バス「四軒屋住宅」東へ2分)。2月の例会出席は5人。内容は1459号~1466号の記事より持ち時間でレポートする。取り組みなど近況報告。問合せ(090・1000・2908ウカ)

    みやぎ読者会 
    4月3日(水)19時~20時45分、仙台市市民活動サポートセンター(青葉区一番町4―1―3)。会場費200円。フリートーク。▼自民党に長老から若手まで下衆が多いのは、有権者が当選させる(落選させられない)から。スポーツとエンタメ文化の過剰報道で理性的判断は困難になる▼1459号「砂川事件国賠訴訟」判決に見られるように、国策は憲法を越えたところで決まり、戦争国家へ邁進中▼1460号、1462号「『本多勝一のベトナム』を行く」ドイモイと社会主義は考えさせられる▼同号49ぺージ、山口泉×洪成潭対談。3・11をうけて、日本人が皆"反原発"になれば、過去の植民地支配や戦争犯罪行為までも免罪にできるほどであるが、実際は真逆を歩んでいる。これはもはや道徳性が失われた絶望的状態との見解に恥じ入る。問合せ(090・2023・5155里見)

    新宿・渋谷読者会 
    4月4日(木)19時~、新宿の「例の場所」。参加希望者は前日までにご連絡ください。場所を伝えます。ゲストを囲んで、本誌最新号を語ります。▼日本の漫画家、芸能人、プロ野球選手などの雇用契約の奴隷的内容に唖然。なぜ会社側の取り分が半分以上なのか? 1000億円契約の大谷翔平の代理人でさえ4%の40億円なのにだ。「取り分」を突くマスコミが一社もないのは、TV局や新聞社も子会社に派遣会社を持っているので、ブーメランになってしまうからだ。問合せ(090・1779・0987藤萬/19時以降、非通知不可)

    噴火湾読者会 
    4月6日(土)14時~、室蘭市水元町27―1、Y棟前集合。3月例会5人。新メンバー熱烈募集中。話題になった各号の記事は▼1459号「風速計」(宇都宮健児)、「防災省」設置案に賛同。1460号「風速計」(想田和弘)、映画祭の持つ力に期待。同号「アンテナ」ソウル高裁判決記事で、人権中心の法秩序世界賛成! 同号22ページ、太田昌記事は「東アジア反日武装戦線」を取り上げた。日本の60~70年代を「平和」と見なすかどうかで議論。世代間と地域差の考慮必要。1461号28ページ、樫田秀樹記事はダムのスリット化。北海道では特に切実だ。1462号20ページ、永尾俊彦記事の「日の丸・君が代」強制。教育の理念や個人の思想を業務指示レベルで毀損するな。日本国憲法が掲げる崇高な理想を、今こそ世界に及ぼそう。問合せ(080・4320・3521qze17450@nifty.com)

    札幌西読者会 
    4月6日(土)14時~16時半、西区民センター(琴似2条7、駐車場あり)。参加費200円。私たちはさまざまな困難な情況に取り込まれていますが、本誌の読者としてどのように考えたらよいのでしょうか。初めての方も、久し振りの方も、参加され話し合ってみませんか。3月は5人の参加でしたが皆さんから忌憚のない意見が出されました。札幌市の敬老乗車証改悪、有機フッ素とダイキン工業、大阪万博とカジノ、沖縄の基地拡大と独立論、『週刊金曜日』と鹿砦社、などの事柄について話し合われました。問合せ(011・691・0143やた)

      資本論NHK

       



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      『反資本主義 新自由主義の危機から<真の自由>へ』デヴィッド・ハーヴェイ 著

       




      <書評>『反資本主義 新自由主義の危機から<真の自由>へ』デヴィッド・ハーヴェイ 著

      2024年1月21日 07時00分

      ◆分析を通し代替案を模索
      [評]平川克美(評論家)

       資本は、その運動中に三つの基本形態をとる。第1は貨幣であり、第2は商品になる。そして第3に生産活動になる。そして、最も移動しやすいのは貨幣であり、貨幣は運動することで増殖する。資本主義とは成長を条件づけられたシステムであり、本書の著者が言う複利的増殖を続けている。著者は、アメリカが100年間で消費した量のセメントを、中国ではわずか2、3年で消費してしまった例を挙げる。この商品やサービスの爆発的増加を吸収する市場はどこにあるのか。
       本書は、経済地理学、都市研究の第一人者である著者による、ポッドキャスト番組から生まれたもので、マルクスを通して現代資本主義を分析し、代替案を模索している。プロレタリアートという言葉に馴染(なじ)みのない、マルクスを読まない若者たちにも理解しやすい内容になっている。
       資本主義は、国家の枠組みを超えたグローバル資本主義として、あるいは金融資本主義として、また社会的共通資本を民営化によって切り崩す新自由主義的形態として成長の空間を広げてきた。しかし先進国が人口減少のフェーズに入り、地球環境に甚大な影響を及ぼす段階になった今、これらの経済システムの限界が露呈しつつある。
       そもそも資本主義とはいかなるもので、それはどのようにして生まれてきたのか。おなじみの物語は、勤勉なものと怠け者がいて、「放蕩(ほうとう)な人々は生活をするのがやっとの状態に取り残され、労働力を提供することに」なったというもの。本邦の政治家が好んで引用する物語である。少しまともな政治家なら、ウェーバーが述べた倫理的プロテスタンティズムと資本主義の精神の関係について語るだろう。
       マルクスはどちらの物語も棄却して、従来の統治制度の簒奪(さんだつ)、略取、強奪、暴力、詐欺、国家権力の不正適用の過程から生まれたのが資本主義だと主張している。そして資本主義が生み出してきた疎外の諸構造を見極めろと主張する。本書は、今なぜ世界はこうなのかを改めて再確認するための一級の手引書である。
      (大屋定晴監訳、中村好孝、新井田智幸、三崎和志訳、作品社・3520円)
      1935年英国生まれ。ニューヨーク市立大特別教授・経済地理学。

      ◆もう1冊

      『新自由主義 その歴史的展開と現在』デヴィッド・ハーヴェイ著、渡辺治監訳(作品社)

      反資本主義

       








      反資本主義

      1911年の世界産業労働組合によるポスター。「資本主義のピラミッド」。各層の文字は上から「資本主義」「我々はあなたがたを支配する」「我々はあなたがたを騙す」「我々はあなたがたを撃つ」「我々はあなたがたに代わって食べる」「我々は皆さんのために働く、我々は皆さんを養う」

      反資本主義(はんしほんしゅぎ、英語Anti-capitalism)とは、資本主義に反対する思想や行動である。反資本主義の例には社会主義共産主義国家主義ナショナリズム[1][注 1]国家社会主義ナチズム)、結束主義(ファシズム)、第三の道第三の位置等がある。

      概要[編集]

      このような思想は19世紀以降において増加してきた。主な批判の内容としては、

      共産主義との関係[編集]

      資本主義に反対するものは共産主義ファシズムなど、資本家の支配を否定し「労働者が実権を握るべき」という思想である。しかし、必ずしも共産主義に賛成する者ばかりではない。労働者が実権を握ってもやがて上層部が支配層となり崩壊を招くという危惧からのものである。

      反新自由主義[編集]

      21世紀に入って、資本主義の先祖返りとも言うべき新自由主義が世界的に推し進められたことへの反動から、ウォール街占拠運動などの運動が世界中で起きている。日本でも、もともと反資本主義を掲げる左派のみならず、資本主義そのものを否定はしないものの政権党の自民党よりの立場から、明確に反新自由主義を唱える人物や勢力が存在する(日本文化チャンネル桜など)。

      森永卓郎は「権力側の者が、大勢の無知な大衆から搾取する、これが資本主義の本質である」[2]、また「権力者・金持ちが一般庶民から搾取するという資本主義の本質を強化するのが新自由主義である」と指摘している[3]

      注釈[編集]

      1. ^ 『日本大百科全書』には
        ナショナリズム

        19世紀後半に入って先進資本主義国が経済上の利益確保を至上のものとして対外的膨張策を図り、アジア・アフリカなどの後進諸地域を支配・抑圧すると、被支配諸民族がそうした不当な支配から自己を解放し、自民族や自国の独立を主張する民族主義的(ナショナリスティック)な思想や運動が現れた」
        と記載がある[1]

      出典[編集]

      1. a b 田中 2019, p. ナショナリズム.
      2. ^ 森永卓郎 『「騙されない!」ための経済学 モリタク流・経済ニュースのウラ読み術』 PHP研究所〈PHPビジネス新書〉、2008年、16頁。
      3. ^ 森永卓郎 『「騙されない!」ための経済学 モリタク流・経済ニュースのウラ読み術』 PHP研究所〈PHPビジネス新書〉、2008年、102頁。

      関連項目[編集]

      参照文献[編集]

      外部リンク[編集]